事業承継 経営者保証の解除ガイド|要件・申請・相談先まで
事業承継における経営者保証は、「経営者保証に関するガイドライン特則」と「事業承継特別保証制度」を中心に、適切な手順を踏めば解除や非提供が可能です。後継者が必ず先代の保証を引き継ぐ必要はなく、金融庁の2025年度上期実績では新規融資の55.8%が経営者保証に依存しない融資となっており、無保証化はすでに実務の主流になりつつあります(金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績」2025年12月公表)。
本記事では、「特則」「事業承継特別保証制度」「代替策」「2025〜2026年の最新動向」の4点を軸に、自社がどのルートで保証を外せるのかを判断するための材料を整理します。制度名を並べるだけの解説ではなく、実務上どこで詰まり、どう動けばよいのかという視点でまとめています。
事業承継で経営者保証が問題になる理由
経営者保証は、後継者にとって個人資産リスク・家族影響・心理的ハードルを伴う重大な意思決定要素であり、承継そのものの可否を左右します。帝国データバンクの2025年調査では、後継者不在または未定の企業は依然として13.8万社にのぼっており、保証問題は承継停滞の主要因の一つと位置づけられます(帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」)。
後継者にとって何が負担になるのか
後継者が引き継ぐのは、事業と株式だけではありません。先代が個人保証している借入がある場合、承継と同時に同様の保証を求められると、自宅を含む個人資産が事業リスクに直接さらされます。「継ぎたいが、保証までは負えない」という葛藤は、特に40〜50代の後継候補に強く現れます。家族の同意が得られず承継が止まる、というのは元銀行員としての現場感覚でも頻出する場面です。
先代保証が残ることのリスク
承継後も前経営者の保証契約が残り続けると、先代は引退後も法人債務に拘束されます。本来は承継により経営から離れるはずが、保証契約だけが残るというねじれた状態です。事業承継時の経営者保証は「後継者に付けるか」だけでなく、「先代から外せるか」の二軸で考える必要があります。
承継手法ごとに変わる論点
親族内承継、従業員承継(役員・従業員への承継)、M&Aによる第三者承継では、保証・借入・株式取得資金の論点が変わります。親族内承継では先代保証の解除が中心論点ですが、従業員承継やM&Aでは、後継者が株式取得資金を借り入れる際の保証や、買い手側の借入条件が論点に加わります。帝国データバンクの2025年速報では、就任経緯のうちM&Aほかが20.6%を占めており、承継手法の多様化が進んでいる点も踏まえて検討する必要があります。
保証解除の基本ルールを整理する

制度名の前に、まず「経営者保証に関するガイドライン特則」という行動原則を理解することが、保証解除交渉の出発点です。特則は法律ではなく金融機関と債務者双方の自主ルールですが、金融機関の運用指針として広く定着しています(全国銀行協会「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」)。
ガイドライン特則の位置づけ
「経営者保証に関するガイドライン」は、経営者保証を取るかどうか・外すかどうかの判断基準をまとめた自主ルールです。その特則は、事業承継時に特化した運用指針として2020年に施行されました。融資制度ではなく「考え方の物差し」である点が、事業承継特別保証制度との根本的な違いです。
二重徴求をどう避けるのか
特則の中核は、前経営者と後継者の双方から二重に保証を取らないという原則です。承継のタイミングで両方から徴求すれば、合理性なく保証総量が膨らみます。ただし、財務状況や経営権の分散など合理的な理由がある場合は例外が認められる余地もあるため、「絶対に二重徴求されない」と理解するのは正確ではありません。金融機関との対話で、なぜ二重徴求が必要なのかの説明を求める姿勢が重要です。
解除判断で見られる観点
金融機関と保証協会が共通して重視するのは、以下3点です。
(1)法人と経営者個人の資産・経理の明確な分離
(2)財務基盤の強さ
(3)情報開示の透明性
役員貸付金や個人名義で法人が使う資産が残っていると、それだけで「分離が不十分」と判定されやすくなります。決算書の数字以前に、こうした基本構造を整えることが解除への最短ルートです。
金融機関との対話で確認すべきこと
金融庁が2025年12月に公表した全502金融機関アンケートでは、94.1%の金融機関が「保証の必要性をより検討するようになった」と回答し、71.9%が本部等で定めた説明様式を使って保証人へ説明しています。つまり、債務者側から「なぜ保証が必要なのか」「どの要件を満たせば外せるのか」を尋ねれば、書面ベースで根拠説明を受けられる体制が整っているということです。受け身ではなく、説明を求める姿勢で対話に臨むべきです。
事業承継特別保証制度の使い方

事業承継特別保証制度は、一定要件を満たした中小企業が事業承継時に経営者保証を不要として信用保証付き融資を受けられる、信用保証協会の制度です。最大2億8,000万円、保証料率は0.45%〜1.90%、公的確認を受けた場合は0.20%〜1.15%に軽減され、保証人は徴求されないと整理されています(中小企業庁「2026年度版 中小企業施策利用ガイドブック」)。
対象企業と4つの要件
事前承継型と事後承継型のどちらでも申し込み可能ですが、一般的には次の4要件すべての充足が求められます。
1. 資産超過であること 直近決算で純資産がプラスであることが基本です。
2. EBITDA有利子負債倍率が10倍以内 (EBITDA有利子負債倍率=(借入金・社債−現預金)÷(営業利益+減価償却費)で計算する、債務返済能力の指標)
3. 法人と経営者の分離 役員貸付金や個人資産との混在がないこと。
4. 返済緩和中でないこと リスケジュール(返済条件変更)を受けていないこと。
なお、適用期限や細目は改正されることがあるため、申込時点での最新要件は信用保証協会の公式ページでの確認が必須です。
対象資金・保証限度額・保証料率
対象は事業資金で、運転・設備のいずれにも使えます。承継前後の借換にも対応するため、既存の個人保証付きプロパー融資を借り換えて保証を外す、という使い方が中心になります。ただし、すべての借入が借換対象になるわけではなく、設備資金や事業以外の借入は対象外となるケースがあります。
申し込みに必要な書類
(1)直近3期分の決算書
(2)直近の試算表
(3)資金繰り表
(4)事業承継計画書
(5)法人税申告書
(6)登記事項証明書 など
事業承継計画書は、誰に・いつ・どのように承継するかを明示する書類で、要件確認の中核資料となります。実務的には、計画書の作成だけで2〜3か月かかることもあるため、承継の1年前には準備を始めるのが現実的です。
相談から実行までの流れ
一般的な流れは、以下の通りです。
(1)金融機関または事業承継・引継ぎ支援センターへの相談
(2)要件確認と必要書類の整備
(3)信用保証協会への申込
(4)審査
(5)保証承諾と融資実行
中小企業基盤整備機構の発表によれば、令和6年度の事業承継・引継ぎ支援センターの相談者数は2.3万者超、第三者承継の成約件数は2,132件と過去最高を記録しています(中小企業基盤整備機構2025年5月発表)。公的窓口の活用は、もはや特別な選択肢ではありません。
解除できないときの代替策を比較する
事業承継特別保証制度の4要件を満たせない場合でも、保証問題を緩和する選択肢は複数あります。「使えないなら諦める」ではなく、自社の状況に合う代替ルートを探すことが、保証解除戦略の現実的なアプローチです。
経営承継借換関連保証
承継時の借換ニーズに対応する制度で、事業承継特別保証制度より柔軟な要件で利用できる場合があります。事業承継特別保証が要件未達の場合に、まずこちらで借換を整理し、財務体質を整えてから再挑戦する、という二段階戦略が取れます。
事業者選択型経営者保証非提供促進特別保証制度
事業承継特化ではありませんが、保証料を上乗せすることで経営者保証を不要にできる制度として2024年に創設されました。中小企業庁2025年4月の金融小委資料によれば、2024年3月15日から2025年3月31日までの保証承諾実績は14,717件、265,083百万円に達しており、活用が広がっています。事業承継特別保証の要件を満たせない場合の選択肢として検討価値があります。
M&A・株式取得で使う関連保証
経営承継関連保証や経営承継準備関連保証は、後継者が株式や事業用資産を取得する際の資金調達に使える制度です。親族内承継では論点になりにくいですが、従業員承継やM&Aでは株式取得資金が大きな課題となるため、これらの制度の存在を知っておくと選択肢が広がります。
早期経営改善計画や公的支援の併用
要件未達の主因が財務面である場合、いきなり保証解除を目指すのではなく、早期経営改善計画や経営改善計画策定支援事業(405事業)を活用し、財務改善を進めながら段階的に保証解除を目指すアプローチが現実的です。役員貸付金の解消、資産負債の整理、収益構造の見直しを1〜2年かけて進めれば、要件充足が見えてくるケースは少なくありません。
数字で見る2025-2026年の経営者保証|実績と承継トレンド

経営者保証を取らない融資慣行は、もはや「例外的な対応」ではなく標準的な実務になりつつあります。2025年に入ってからのデータは、その流れを明確に示しています。
無保証融資の実績はどこまで進んだか
金融庁の2025年度上期活用実績によれば、新規融資件数に占める「経営者保証に依存しない融資」の比率は55.8%に達し、有保証融資のうち適切な説明を行い記録した融資を含めると99.8%となっています(金融庁2025年12月公表資料)。同庁の全502金融機関アンケートでは、73.6%の金融機関が「前回保証を取ったことを理由に安易に保証を徴求することが減った」と回答しています。「前回が保証付きだから今回も」という慣性的な徴求は、実務上も後退しているということです。
事業承継支援の実績はどうなっているか
中小企業基盤整備機構の発表では、令和6年度の事業承継・引継ぎ支援センターの相談者数は2.3万者超、第三者承継相談者は16,045者、第三者承継の成約件数は2,132件で過去最高、親族内承継の支援完了件数は1,695件でした。公的支援の利用は急速に一般化しており、「相談する人が珍しい」段階はすでに終わっています。
後継者不在率と承継形態の変化
帝国データバンクの2025年調査では、全国の後継者不在率は50.1%で、前年比2.0ポイント低下しました。改善傾向にはあるものの、過半数が後継者未定という状態は依然として深刻です。一方で、2025年速報の就任経緯では「内部昇格」36.1%が「同族承継」32.3%を上回り、「M&Aほか」も20.6%を占めています。承継手法は明らかに多様化しており、保証問題への対応もそれに応じて多様化させる必要があります。
期限や制度差分をどう確認するか
民間の解説記事や地方支援機関のページでは、制度の適用期限や保証料率について、改正前の情報が残っているケースが見受けられます。実務で動く際は、信用保証協会、中小企業庁、金融庁の公式ページで申込時点の要件を必ず再確認してください。本記事の数値も執筆時点(2026年5月)のものであり、最新版の確認は不可欠です。
FAQ
Q. 特則と事業承継特別保証制度の違いは何ですか?
特則は「経営者保証に関するガイドライン」の事業承継版で、金融機関と債務者の行動原則を定めた自主ルールです。一方、事業承継特別保証制度は信用保証協会が運営する具体的な信用保証制度で、要件を満たせば最大2億8,000万円まで無保証で保証付き融資を受けられます。「ルール」と「制度」と整理すると理解しやすく、両者は競合せず併用される関係にあります。
Q. 赤字やリスケ中でも経営者保証を外せますか?
事業承継特別保証制度は資産超過・返済緩和中でないことが要件のため、リスケ中の利用は基本的に困難です。ただし、早期経営改善計画や経営改善計画策定支援事業を活用して財務体質を整えれば、1〜2年で要件充足が視野に入るケースもあります。事業者選択型経営者保証非提供促進特別保証制度など、相対的に柔軟な代替策の検討も含め、まずは現状診断から始めるのが現実的です。
Q. 既存借入はどこまで借り換えできるのか?
事業承継特別保証制度の借換対象は事業資金が中心で、すべての借入が対象になるわけではありません。設備資金、事業外借入、特殊な信用保証付き融資などは対象外となる場合があります。借換可否の判定は信用保証協会と金融機関の個別判断になるため、対象借入リストを作成して事前に相談することをお勧めします。
Q. 最初に誰へ相談すればよいですか?
入口は、(1)メインバンク、または(2)各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターのいずれかが基本です。メインバンクは融資条件を最もよく把握しており、支援センターは中立的な立場で複数の選択肢を提示できます。
並行して、税理士には法人・個人分離の整理、中小企業診断士には事業計画と財務改善、弁護士には株式や契約面の整理を相談すると、論点が抜け落ちにくくなります。専門家チームでの並走が、結果的に最短ルートになることが多いです。
まとめ
事業承継における経営者保証は、特則の理解、制度比較、早期相談の3点を押さえれば、解除や非提供の道筋を描けるテーマです。後継者が必ず保証を引き継ぐ必要はなく、先代保証だけが残り続ける状態も避けられます。一方で、要件未達のまま申し込んでも通らないため、自社が「どのルートで」「どの要件を満たして」保証を外すのかを事前に設計することが重要です。

未来設計パートナーズでは、1級FP技能士・中小企業診断士・弁護士・元銀行員が連携し、事業保障と個人資産の両面から事業承継時の経営者保証問題に伴走しています。代表の南宏明は元銀行員(千葉県金融機関で8年勤務)として保証実務の現場感覚を持ち、中小企業診断士・1級FP技能士の視点から、財務改善と承継設計を統合的に支援しています。保険商品の販売や特定商材の勧誘を目的としない中立的な立場で、千葉・東京・神奈川を中心に全国対応しています。
なお、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、税務・法務上の個別判断を行うものではありません。具体的な制度適用や承継スキームの設計は、個別事情を踏まえた専門家への相談をお勧めします。制度の最新要件は中小企業庁、信用保証協会、金融庁の公式ページで必ず確認してください。