会社に跡継ぎがいない|廃業以外の4つの選択肢と解決策
会社に跡継ぎがいない場合でも、廃業しか道がないわけではありません。親族内承継・従業員承継・M&A(第三者への会社の引き継ぎ)という複数の選択肢があり、早期に検討を始めるほど、後継者の育成、承継相手の探索、株式・借入・保証の整理に充てる時間を確保しやすくなります。
帝国データバンクの2025年調査では全国の後継者不在率は50.1%(出典:帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査2025」)。つまり、跡継ぎがいない状況は全国の企業の半数が抱える課題であり、決してあなたの会社だけの悩みではありません。
本記事では、跡継ぎがいない会社が取れる選択肢と、自社に合った道の選び方を整理します。
会社に跡継ぎがいないとき、最初に知るべき結論
結論から言うと、跡継ぎがいない会社の主な選択肢は「親族内承継」「従業員承継」「M&A(第三者承継)」「廃業」の4つで、最も避けるべきなのは「何もせず放置すること」です。
放置している間にも経営者は年齢を重ね、取れる選択肢は少しずつ減っていきます。逆に、現状を整理して早めに相談を始めれば、子どもが継がなくても従業員や社外の第三者へ会社を引き継ぎ、従業員の雇用や取引先との関係を維持できる可能性があります。実際、承継の形は多様化しており、「跡継ぎ=子ども」という前提はすでに崩れつつあります。まずは「会社を残す道はある」と知ることが出発点です。
跡継ぎがいない会社が直面する現実

このセクションの結論は2つです。後継者不在は企業の約半数が抱える一般的な課題であること、そして承継の主流が「同族」から「非同族」へ移っていることです。
後継者不在はどれくらい多いのか
帝国データバンクが全国約27万社を対象に行った2025年調査では、後継者不在率は50.1%でした。前年から2.0ポイント改善し7年連続で低下しているものの、依然として企業の半数で跡継ぎが「いない、または未定」という状況です(出典:帝国データバンク、2025年11月)。問題は改善傾向にありますが、規模としてはなお深刻と言えます。
なぜ今この問題が深刻なのか
中小企業庁の「2025年版中小企業白書」によると、中小企業経営者の年齢は60歳以上が過半数を占めています。経営者の高齢化が進む一方で承継準備は遅れがちで、「自分はまだ元気だから大丈夫」と考えているうちに、健康問題や急な環境変化で選択肢が一気に狭まるケースが少なくありません。銀行の融資現場でも、経営者の急病を機に承継が混乱する例は珍しくないというのが監修者の実感です。
子どもが継がないのは珍しくない
帝国データバンクの2025年調査では、就任経緯別で「内部昇格」が36.1%となり、「同族承継」の32.3%を初めて上回りました。後継者候補の属性でも「非同族」が41.0%と初の4割超えです。つまり、子どもや親族以外への承継はすでに主流の一つであり、「子どもが継がない=会社の終わり」ではありません。継がない理由も、本人の意思だけでなく、事業の将来性への不安や経営能力への自信のなさなど多様で、感情論だけで片づけられる問題ではないのです。
放置すると起きる損失
跡継ぎ問題を先送りにすると、主に3つの損失が生じます。第一に、後継者育成やM&Aの相手探しに使える時間が減り、選択肢そのものが減ること。第二に、業績や経営者の健康状態が悪化してから動くと、譲渡条件や引き継ぎ条件が不利になりやすいこと。第三に、経営者の急病・急逝時に、株式や借入・個人保証の整理がされておらず、会社と家族の双方が混乱することです。
跡継ぎがいない会社にある主な選択肢
主な選択肢は4つあり、それぞれ向き・不向きが明確に異なります。自社の状況と照らし合わせて読み進めてください。なお、株式公開(IPO)も理論上の選択肢ですが、対象となる企業は限られるため本記事では割愛します。
親族内承継
子どもや親族に会社を引き継ぐ方法です。経営理念や取引先との関係を引き継ぎやすく、社内外の理解も得やすい一方、本人の承継意思の確認、自社株式の集約、贈与・相続に伴う税負担への備えなど、準備には年単位の時間がかかります。税負担の扱いは会社の株価や親族構成によって大きく変わるため、一般論で判断せず税理士等の専門家に個別に確認することが不可欠です。
従業員承継
役員や従業員に会社を引き継ぐ方法です。事業内容を熟知した人材に任せられるため、社内の混乱が少ないのが利点です。一方で、株式の買い取り資金をどう用意するか、金融機関からの借入に付随する経営者保証(社長個人が会社の借金を保証する仕組み)を引き継げるかが大きな壁になります。この資金・保証問題こそ、金融機関出身の専門家に早めに相談する価値がある論点です。
M&Aによる第三者承継
社外の企業や個人に会社を譲渡する方法です。従業員の雇用や取引先との関係を維持しながら事業を続けられる可能性があり、経営者は株式の譲渡対価(創業者利益)を老後資金に充てることもできます。「M&Aは大企業の話」というイメージは過去のもので、小規模企業や個人が買い手となる事例も増えています。
廃業・清算
事業をたたむ選択肢です。負債を整理して計画的に廃業すること自体は立派な経営判断ですが、雇用や取引先への影響が大きく、設備や在庫は清算価値(処分時の低い評価額)でしか換金できないのが通常です。借入の個人保証が残る場合の対応も必要になるため、廃業は「他の選択肢を検討し尽くした後の最終手段」と位置づけるのが妥当です。
自社に合う道を選ぶ判断フレーム

跡継ぎがいない会社が道を選ぶには、選択肢の知識だけでは足りません。「何を残したいか」「会社の現状」「候補者の有無」「期限」の4点を順に整理すると、自社に合う道が見えてきます。
まず何を残したいのかを決める
会社名やブランドか、従業員の雇用か、取引先や地域への供給責任か、それとも創業者としての手取り(譲渡対価)か。すべてを100%満たす承継はまれで、優先順位のつけ方によって選ぶべき道は変わります。ここが曖昧なままM&A仲介会社などに相談すると、提案に流されやすくなるため、最初に自分の言葉で優先順位を書き出すことをおすすめします。
会社の状態を棚卸しする
黒字か赤字か、借入と個人保証の状況、特定の取引先への依存度、許認可や資格の承継可否、キーパーソンとなる人材の有無を確認します。日本政策金融公庫の2025年調査では、事業承継の意向がある企業は黒字企業で65.7%、赤字企業で38.8%と差があり(出典:日本政策金融公庫「経営者の事業方針に関するアンケート」2025年)、業績が良いうちに動くほうが選択肢は広がります。
後継者候補の有無と育成余地を見る
「候補がいるか」だけでなく、「経営者として育てられるか」「従業員や取引先が納得するか」まで見る必要があります。同じ公庫調査では、承継意向がある企業でも約2割は後継者候補すらいない状態でした。候補がいない場合は、社外からの招へいや第三者承継へ早めに視野を広げるべきです。
いつまでに決めるか期限を決める
承継準備の内容は残された時間で変わります。5年程度を確保できれば育成や課題整理を段階的に進めやすくなりますが、1年しかなければ実行可能な選択肢を専門家と早急に比較が必要になるかもしれません。「何歳までに引退するか」から逆算し、期限を先に決めてしまうのが、先送りを防ぐ最も確実な方法です。
後継者探しで今すぐ始める実務
初動は「計画を紙に落とす→会社の価値を見える化する→株式・保証を整理する→相談先を決める」の順です。順番を守ることで、相談の質が大きく上がります。
事業承継計画を作る
後継者候補(未定なら未定と明記)、承継時期の目標、株式の移転方法、借入・保証の扱い、引き継ぐべき業務やノウハウを1枚にまとめます。完璧である必要はなく、現状と課題を「見える化」すること自体に価値があります。
会社の価値と引き継ぎ価値を見える化する
財務数値だけでなく、固定客・顧客基盤、技術やノウハウ、立地や地域でのブランド、人材、許認可といった「引き継ぐ価値のある資産」を棚卸しします。これらは後継者や買い手にとっての魅力そのものであり、赤字企業でも承継が成立する理由の多くはここにあります。
株式・借入・個人保証を整理する
株式が親族に分散している、経営者個人と会社の資産が混在している、借入に経営者保証が付いている——こうした状態は、どの承継方法を選んでも障害になります。保証の解除や引き継ぎの可否は金融機関との交渉事項であり、契約内容や財務状況によって扱いが異なるため、早い段階で金融機関や専門家に相談してください。
相談先を決める
顧問税理士は税務、金融機関は資金と保証、公的窓口は全体の交通整理、M&A仲介会社は相手探し、と役割が異なります。最初の相談先としては、公的窓口(後述)か、利害関係の少ない専門家に全体像を整理してもらい、その上で必要な専門機関につないでもらう流れが失敗しにくい進め方です。
M&Aを選ぶなら「安全性の見極め」までがセット

M&Aは有力な選択肢ですが、近年は手数料や利益相反をめぐるトラブルも指摘されており、中小企業庁は「中小M&Aガイドライン(第3版)」で仲介会社の手数料説明や利益相反、経営者保証の扱いなどのルールを明確化しています。成功事例だけでなく、支援機関の見極め方まで知ってから進めましょう。
買い手に評価される会社の共通点
黒字かどうかだけでなく、安定した顧客基盤、代替の利きにくい技術・許認可、良い立地、定着した人材、属人化していない業務の再現性が評価されます。日本政策金融公庫の事業承継マッチング支援では、累計成約企業のうち譲渡側の約3割が赤字でした(出典:日本政策金融公庫、2025年5月公表資料)。赤字だから売れないと決めつける必要はありません。
仲介会社・FA・マッチングサイトの選び方
仲介会社(売り手と買い手の間に立つ)、FA(どちらか一方の利益のために動くアドバイザー)、マッチングサイト(自分で相手を探す)では、料金体系も支援範囲も異なります。手数料の計算方法と最低報酬額、得意な業種・規模、そして国の「M&A支援機関登録制度」に登録されているかを最低限の確認ポイントにしてください。
契約前に確認したい注意点
仲介契約を結ぶ前に、手数料の総額イメージ、契約期間と中途解約の条件、他社への相談を禁じる専任条項の範囲、利益相反への対応方針、経営者保証の解除見込みを必ず確認します。中小M&Aガイドライン第3版は、まさにこれらの説明義務を支援機関側に求めており、十分な説明が得られない場合は契約を急がず、公的窓口や別の専門家にセカンドオピニオンを求めましょう。
成約後に失敗しない引き継ぎ準備
M&Aは成約がゴールではありません。従業員への説明のタイミング、主要取引先への挨拶、権限移譲の段取りといった、成約後の統合プロセス(PMI)まで設計しておく必要があります。2026年版中小企業白書も、事業承継・M&Aには企業の付加価値を高める効果が見られる一方、その成否はPMIへの取り組みに左右されると整理しています(出典:中小企業庁「2026年版中小企業白書・小規模企業白書 概要」)。
相談先・公的支援・補助金の使い分け【2026年時点】
2026年時点で利用できる主な支援を整理します(公募時期・要件は変更されるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください)。
事業承継・引継ぎ支援センター
全国47都道府県に設置された国の相談窓口で、承継計画の策定からM&Aのマッチングまで原則無料で支援しています。中小企業基盤整備機構の公表によると、2025年度(令和7年度)は新規相談者が24,000者を超え、第三者承継の成約は2,265件、後継者人材バンクの成約も114件と実績が伸びています(出典:中小機構、2026年5月公表資料)。
日本政策金融公庫の事業承継マッチング支援
小規模事業者や個人事業主も利用を検討できる、公的な事業承継マッチング支援です。利用対象、申込方法、支援内容は日本政策金融公庫の公式案内で確認してください。
事業承継・M&A補助金
承継やM&Aに伴う設備投資、専門家活用費用、経営資源の引き継ぎ費用などを支援する国の補助金で、2026年5月には十五次公募が告知されています。公募回ごとに要件や締切が異なるため、活用を考えるなら承継計画とセットで早めに準備することが重要です。
M&A支援機関登録制度
国に登録された仲介会社・FAを検索できる制度で、登録機関は中小M&Aガイドラインの遵守を宣言しています。登録の有無だけで安全と断定はできませんが、支援機関を選ぶ際の最低限のスクリーニングとして活用できます。
跡継ぎがいない会社のよくある質問
跡継ぎがいない会社は廃業するしかないのですか?
いいえ。従業員承継やM&Aによって会社を残す道があり、実際に承継の4割超は非同族への引き継ぎです。廃業は選択肢の一つですが、他の道を検討した上での手段と考えてください。
子どもが継がない場合、次にどんな選択肢がありますか?
役員・従業員への承継と、M&Aによる第三者承継が現実的な選択肢です。就任経緯では内部昇格が同族承継を上回っており、社内人材への承継は特別な方法ではなくなっています。
赤字の会社でも後継者や買い手は見つかりますか?
見つかる可能性はあります。公庫のマッチング支援では成約企業の約3割が赤字でした。顧客基盤・技術・立地・人材など、財務諸表に表れない価値が評価されるためです。
後継者探しは何から始めればいいですか?
「何を残したいか」の優先順位づけと、会社の現状(業績・株式・借入・保証)の棚卸しから始めてください。その整理メモを持って公的窓口や専門家に相談すれば、初回から具体的な助言が得られます。
どこに相談すれば失敗しにくいですか?
最初は、事業承継・引継ぎ支援センターか、特定商品の販売を目的としない中立的な専門家がおすすめです。全体像を整理した上で、税理士・金融機関・登録支援機関など目的別の専門機関を使い分けましょう。
まとめ:会社に跡継ぎがいないなら、今日から現状整理を

会社に跡継ぎがいないことは、廃業を意味しません。後継者不在率は50.1%と半数規模である一方、非同族への承継が主流化し、公的支援の成約実績も年々伸びています。大切なのは、何を残したいかの優先順位、会社の現状、期限の3つを整理し、黒字で元気なうちに相談を始めることです。
最初の一歩として、まずは「承継で何を一番残したいか」を紙に書き出すことから始めてみてください。
なお、事業承継は株式・税務・借入・個人保証・経営者自身の老後資金が複雑に絡むテーマであり、最適解は会社ごとに異なります。

未来設計パートナーズでは、1級FP技能士・中小企業診断士・弁護士・元銀行員が連携し、事業承継に向けた初期整理と経営者個人の資産設計を支援します。代表の南宏明は元銀行員(千葉県金融機関で8年勤務)として保証実務の現場感覚を持ち、中小企業診断士・1級FP技能士の視点から、財務改善と承継設計を統合的に支援しています。保険商品の販売や特定商材の勧誘を目的としない中立的な立場で、千葉・東京・神奈川を中心に全国対応しています。
なお、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、税務・法務上の個別判断を行うものではありません。具体的な制度適用や設計は、個別事情を踏まえた専門家への相談をお勧めします。制度の最新要件は中小企業庁、信用保証協会、金融庁の公式ページで必ず確認してください。