自社株の相続税が払えない|対処法と制度・期限を専門家が解説

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自社株の相続税が払えない|対処法と制度・期限を専門家が解説

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自社株の相続税が払えない――この問題は、非上場株式が「評価額は高いのに現金化しにくい」財産であるうえ、納付期限が原則10か月と短いために起こります。解決の軸は、事業承継税制・延納・物納・金庫株特例・M&Aなどの手段を、期限内に比較検討することです。

本記事では、後継者問題の一般論ではなく「納税資金をどう確保するか」に焦点を絞り、国税庁・中小企業庁などの一次情報と2025〜2026年の最新データをもとに解説します。なお、税務・法務の取扱いは個別事情により異なるため、最終判断は税理士等の専門家にご確認ください。

自社株の相続税が払えない人へ、まず整理したい全体像

結論から言えば、この問題のゴールは「税金を払うこと」だけではなく、「会社と経営権を守りながら、自分に合った納税手段を選ぶこと」です。主な選択肢は次の6つに整理できます。

  1. 事業承継税制(非上場株式の納税猶予・免除)
  2. 延納(相続税の分割払い)
  3. 物納(現物による納付)
  4. 相続した株式を発行会社に売却する(金庫株特例)
  5. M&A・株式の一部売却
  6. 借入・保険金・個人資産の換価による資金確保

自社株の相続税が払えない理由

このセクションの結論は、「評価は高い・現金化しにくい・期限は短い」という3つのギャップが重なることで、納税資金が不足するという構造です。原因を分解できれば、打ち手も選びやすくなります。

非上場株式は高く評価されても現金化しにくい

非上場株式(取引相場のない株式)は、市場で売買されないにもかかわらず、相続税の計算では会社の利益や純資産などをもとに評価されます。国税庁のルールでは、同族株主かどうかや会社規模に応じて、「類似業種比準方式」(上場している同業種の株価等と比較して評価する方法)や「純資産価額方式」(会社の純資産を基準に評価する方法)、その併用などで株価が算定されます(国税庁タックスアンサーNo.4638)。

評価額が数億円と算定されても、非上場株には市場がなく、買い手も限られるため、すぐに売却して現金に換えることはできません。「財産評価上は資産家、手元資金は普通」というギャップこそが、納税資金不足の根本原因です。

評価額が上がりやすい会社の特徴

長年黒字を積み上げて利益剰余金(過去の利益の蓄積)が厚い会社、土地や有価証券を多く保有する会社、業績が安定している会社ほど、自社株の相続税評価額は高く算定されやすくなります。

まず現状の株価を把握することが第一歩です。

申告期限までの時間が短く、資金繰りが詰まりやすい

相続税の申告と納付の期限は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁タックスアンサーNo.4205)。この10か月の間に、遺産分割協議、自社株の評価、納税資金の調達、必要に応じた金融機関との調整までを並行して進める必要があります。生前に何も準備していない場合、期限直前になって選択肢が尽きているという事態が起こりやすいのが実情です。

納税と経営権維持がしばしば衝突する

自社株を売却すれば相続税の納税資金は作れますが、売った分だけ後継者の持株比率が下がり、経営権が不安定になります。逆に株式を守ろうとすれば、納税資金を別の方法で工面しなければなりません。「税金さえ払えればよい」ではなく、「納税後に誰が何株を持ち、安定して経営できるか」までをセットで設計しないと、納税はできたのに経営が揺らぐという本末転倒が起こり得ます。

まず使える制度と期限を確認する

参考として、検討順序としては「事業承継税制→金庫株特例→延納→物納」であり、いずれも要件と期限の管理が生命線です。制度ごとに概要と注意点を整理します。

事業承継税制(非上場株式の納税猶予・免除)

一定の要件を満たすと、後継者が相続・贈与で取得した非上場株式にかかる相続税・贈与税の納税が猶予され、最終的に免除され得る制度です。特例措置では、対象株式数の上限が撤廃され、納税猶予の割合も80%から100%に拡大されています(中小企業庁・国税庁)。

ただし期限管理が極めて重要です。特例措置の利用には「特例承継計画」を令和9年(2027年)9月30日までに都道府県へ提出する必要があり、贈与・相続による株式取得は令和9年12月31日までとされています(中小企業庁)。さらに適用後も、株式の継続保有などの要件を満たし、継続届出書を提出し続ける必要があります。要件から外れると猶予されていた税額と利子税の納付が求められるため、「使えば終わり」ではなく長期の管理が前提の制度です。

延納(相続税の分割払い)

相続税を一括で納付できない場合の第一候補が延納です。相続税額が10万円を超え、金銭で一度に納付することが困難な事由があり、原則として担保を提供したうえで期限までに申請すると、分割での納付が認められます。延納税額が100万円以下で延納期間3年以下の場合は担保が不要です(国税庁タックスアンサーNo.4211)。

注意点は利子税です。分割できる安心感の一方で総支払額は増えるため、「延納が認められた=解決」ではなく、返済原資まで含めた資金計画が必要です。

物納(現物による納付)

物納は、延納によっても金銭での納付が困難な場合に限って認められる、いわば最後の手段です。しかも物納に充てられる財産には順位があり、非上場株式等は不動産・国債・上場株式等よりも後の第2順位とされています(国税庁タックスアンサーNo.4214)。ただし、非上場株式であっても、譲渡制限が付された株式は管理処分不適格財産に該当し、物納できません。中小企業の自社株には譲渡制限が付されていることが多いため、定款や株式の内容を確認せずに、自社株の物納を前提とするのは危険です。

なお、物納許可限度額などの計算方法は令和7年度税制改正で見直されています(財務省「令和7年度税制改正の大綱」・国税庁)。古い情報ではなく、改正後の取扱いを確認してください。

相続した自社株を会社に買い取らせる特例(金庫株特例)

相続した自社株の一部を発行会社に売却し、その代金を納税資金に充てる方法です。

通常、非上場株式を発行会社に譲渡し、受け取った対価がその株式に対応する資本金等の額を超える場合、その超過部分はみなし配当として総合課税の対象となります。ただし、相続または遺贈により財産を取得し、その相続について納付すべき相続税額がある個人が、所定の期間内に、相続税の課税対象となった非上場株式を発行会社へ譲渡する場合には、一定の要件のもとで、譲渡対価の全額を譲渡所得の収入金額として扱う特例があります。適用を受けるためには、原則として譲渡日までに所定の届出書を発行会社へ提出する必要があります。

ただし、この方法は会社側に買取資金の余力があり、会社法上の分配可能額(会社が株主に払い出せる上限額)の範囲内であることが前提です。また、何株を売却するかによって株主構成と経営権に影響するため、税務と資本政策の両面からの検討が欠かせません。

ケース別に現実的な解決策を比較する

結論として、正解は一つではありません。「株を残したいか」「会社に資金余力があるか」「後継者がいるか」の3点で、現実的な組み合わせが変わります。

親族承継で株を持ち続ける場合

後継者が決まっていて株式を手放したくないなら、事業承継税制の活用を軸に、不足分を延納や借入で補う設計が基本線です。このとき見落とされがちなのが、他の相続人との調整です。自社株が遺産の大半を占める場合、後継者以外の相続人の取り分や遺留分(法律上保障された最低限の取り分)への配慮を欠くと、承継そのものが紛争化しかねません。

会社に一部買取してもらう場合

経営権の維持に必要な株数は残しつつ、相続税の納税に必要な分だけの自社株を金庫株特例で会社に売却する方法です。株式を社外に流出させずに資金化できる点が利点ですが、前述のとおり会社の資金繰りと分配可能額の確認が先です。買取原資を金融機関からの借入で賄うケースもあり、会社の財務への影響まで含めた試算が必要になります。

M&Aや一部売却を検討する場合

後継者が不在で、自分の代での承継が難しい場合は、M&Aによる第三者承継も現実的な選択肢です。自社株の売却代金で相続税の納税資金と引退後の生活資金を同時に確保できる可能性があります。一方で、従業員の雇用や取引先との関係の維持、買い手の質の見極めなど、金額以外の論点も多く、時間もかかります。納税期限から逆算した早めの着手が不可欠です。

借入・保険・個人資産換価を使う場合

自社株を動かさずに相続税を納める発想もあります。金融機関からの納税資金借入、被相続人が契約していた生命保険の死亡保険金、預貯金や不動産など株式以外の資産の売却です。

生命保険金には相続人1人あたり500万円の非課税枠があり、生前対策として納税資金準備に使われることもありますが、商品や契約形態によって課税関係が異なるため、個別の設計は専門家への確認が前提です。

見落としやすい失敗ポイントを先回りで潰す

結論として、失敗の多くは「税金の計算」ではなく「資本政策と期限管理」で起こります。よくある4つの落とし穴を挙げます。

株式が分散すると後継者が経営権を握れない

相続税の納税や遺産分割の都合だけで自社株を複数の相続人に分けると、後継者の議決権が過半数を割り、重要な意思決定ができなくなる恐れがあります。将来、分散した株式を買い戻すには高いコストと交渉が必要になるため、「今の納税」と「10年後の株主構成」を同時に見て判断すべきです。

会社側に買い取る力がないと金庫株は机上論になる

金庫株特例は「税務上使える」ことと「会社として実行できる」ことが別問題です。分配可能額が足りない、手元資金が薄い、借入余力がないという会社では、制度があっても実行できません。決算書ベースで買取余力を確認し、必要なら金融機関の目線も踏まえた資金計画を先に固めることが重要です。

延納は通っても利子税負担が重いことがある

延納は資金繰りを平準化できる反面、利子税により総支払額は一括納付より増えます。役員報酬や配当などの返済原資が細い場合、数年後に延納の支払い自体が重荷になるケースもあります。「分割できるか」ではなく「払い切れるか」で判断してください。

期限後対応になると選べる手段が狭まる

事業承継税制にも金庫株特例にも延納・物納にも、それぞれ申請・実行の期限があります。相続税の10か月の申告期限を意識せずに動き出しが遅れると、使えたはずの制度が使えなくなり、不利な条件での資産売却しか残らないことがあります。相続発生後はもちろん、可能であれば生前から「試算」と「期限の逆算」を始めることが最大の防御策です。

2025〜2026年の最新データで見る承継の現実

結論として、後継者不足は改善傾向にあるものの、依然として企業の約半数が後継者不在であり、相続税の負担も拡大しています。国税庁の令和6年分申告事績(2025年12月公表)では、相続税申告に係る被相続人は166,730人、申告税額の総額は3兆2,446億円と、いずれも2015年以降で最高でした。

後継者不在は改善しても、まだ半数規模で残っている

帝国データバンクの2025年調査によると、全国の後継者不在率は50.1%で、前年から2.0ポイント低下し7年連続で改善しました。それでもなお約半数の企業に後継者がいない状態であり、自社株を誰にどう引き継ぐかという問題が解消したわけではありません。

休廃業は依然多く、黒字でも消えていく会社がある

同じく帝国データバンクの調査では、2025年の休廃業・解散は67,949件で過去10年で2番目の多さでした。直前期が黒字だった企業の割合は49.1%と、約半数は業績が悪くないまま市場から退出しています。中小企業白書(2025年版)でも、2024年に黒字のまま休廃業・解散した企業は51.1%とされており、事業が健全でも、休廃業・解散に至る企業が少なくないことが分かります。

公的支援の利用は増えている

中小企業基盤整備機構の公表(2026年5月)によれば、令和7年度の事業承継・引継ぎ支援センターの新規相談者は24,000者超、第三者承継(M&A)の成約は2,265件と過去最多でした。無料で相談できる公的窓口が全国で機能しているという事実は、「誰に相談すればいいか分からない」という不安への一つの答えになります。

親族承継一辺倒ではなくなっている

同じ帝国データバンク調査の速報値では、事業承継の就任経緯は内部昇格が36.1%と、同族承継の32.3%を上回りました。「親族に継がせるしかない」という前提を外せば、納税資金の作り方を含めて選択肢は大きく広がります。

自社株評価の見直し動向と将来リスクを押さえる

結論として、自社株の評価ルールそのものが将来見直される可能性があり、「今の評価額」を前提にした対策には更新が必要です。この視点は多くの解説記事にない、押さえておきたい最新論点です。

現行ルールでは何で株価が決まるのか

現行制度では、同族株主等が取得する株式は原則的評価(類似業種比準方式・純資産価額方式やその併用)、それ以外の少数株主が取得する株式は配当還元方式(配当実績をもとに評価する簡便な方法)で評価されます(国税庁No.4638)。会社の利益・純資産・配当が評価を押し上げる主要因であり、ここを把握するだけでも自社の株価水準の見当がつきます。

2026年の有識者会議で何が論点になっているのか

国税庁は2026年、「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催しており、同年7月の第4回会議資料では、配当還元方式の還元率10%が現在の社会経済状況を反映していない可能性、評価額を意図的に圧縮するスキームの存在、類似業種比準方式の在り方などが論点として示されています。現時点で制度改正が決まったわけではありませんが、将来の評価実務に影響し得る動きです。

今できる実務対応は何か

将来の改正を待って様子見をするのは得策ではありません。現行ルールでの自社株の株価試算、株式分散の防止、相続税の納税資金計画の3点は、制度がどう変わっても無駄になりにくい基本動作です。あわせて、対策を一度作って終わりにせず、税制改正のたびに見直す運用体制を持つことが、実務上の最も確実なリスク対応になります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 自社株の相続税が払えないとき、まず何から確認すべきですか?

A. 「自社株の評価額の試算」「相続税額の概算」「相続税の申告期限(原則10か月)までの残り時間」の3点です。あわせて決算書・株主名簿・相続財産の一覧を揃えると、専門家への相談が一度で進みます。

Q2. 事業承継税制を使えば、自社株の相続税は全額猶予されますか?

A. 特例措置では対象株式の全株・猶予割合100%が可能ですが、特例承継計画の提出(令和9年9月30日まで)や取得期限、適用後の継続要件など条件が多く、誰でも自動的に全額猶予されるわけではありません。要件充足の可否は個別確認が必要です。

Q3. 延納と物納は、どちらを先に検討する制度ですか?

A. 延納が先です。物納は「延納によっても金銭納付が困難な場合」に限られ、非上場株式は物納財産としても後順位(第2順位)です。物納を前提にした計画はおすすめできません。

Q4. 相続した自社株を会社に買い取ってもらうと、税金はどうなりますか?

A. 申告期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡なら、一定要件のもとでみなし配当課税をせず譲渡所得として扱う特例があります(国税庁No.1477)。ただし会社側の買取資金と分配可能額、経営権への影響の確認が前提です。

Q5. M&Aで株式を売却して相続税の資金を作るのは有効ですか?

A. 後継者不在の場合には有効な選択肢です。納税資金と引退後の資金を同時に確保できる可能性がある一方、成約まで時間がかかるため、納税期限から逆算した早期着手と、雇用・取引先への影響の検討が欠かせません。

まとめ|自社株の相続税が払えないなら「試算・期限確認・相談」から始める

自社株の相続税が払えない問題の本質は、「株価評価は高い」「換金性は低い」「納税期限は短い」という3つの条件が同時に成立することにあります。だからこそ、事業承継税制・延納・物納・金庫株特例・M&A・借入や保険による資金化といった手段を、経営権の維持と両立する形で組み合わせる設計が必要です。

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未来設計パートナーズでは、1級FP技能士・中小企業診断士・弁護士・元銀行員が連携し、経営者の事業保障と個人資産の両面から、自社株対策・相続・事業承継の設計を支援しています。代表の南宏明は元銀行員(千葉県金融機関で8年勤務)として保証実務の現場感覚を持ち、中小企業診断士・1級FP技能士の視点から、財務改善と承継設計を統合的に支援しています。保険商品の販売や特定商材の勧誘を目的としない中立的な立場で、千葉・東京・神奈川を中心に全国対応しています。

なお、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、税務・法務上の個別判断を行うものではありません。具体的な制度適用や設計は、個別事情を踏まえた専門家への相談をお勧めします。制度の最新要件は中小企業庁、信用保証協会、金融庁の公式ページで必ず確認してください。

著者情報

南 宏明

未来設計パートナーズ 代表FP
株式会社N’EXt Planning 代表取締役

8年間の銀行勤務を経て、FP・中小企業診断士・Webマーケターとして独立。経営コンサルティングとデジタルマーケティングを行う株式会社N’EXt Planningを設立し、中小企業の売上拡大と人材採用を支援している。経営者の事業と個人を両面からサポートする未来設計パートナーズを結成。

◼︎ 経済産業大臣登録 中小企業診断士
◼ ︎1級ファイナンシャル・プランニング技能士
◼︎ 宅地建物取引士 試験合格
◼ ︎TOKYO創業ステーションTAMAプランコンサルタント