利益1,400万円なのに、毎年2,600万円が消える|「黒字に見える事業投資」の落とし穴

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利益1,400万円なのに、毎年2,600万円が消える|「黒字に見える事業投資」の落とし穴

黒字に見える事業投資」の落とし穴

〜PLとキャッシュフローのギャップを読み解く、経営者の財務リテラシー〜

「投資物件、表面利回り5%。フルローンでもキャッシュが回るので大丈夫ですよ」 「自社ビルを建てれば、家賃が資産になりますから」

セールスマンや金融機関の担当者からこうした言葉を聞き、「これはイケる」と判断した経験はないでしょうか。

そして決算を迎え、税理士から「今期は利益が1,400万円出ていますね」と告げられる。ところが、ふと預金通帳を見ると、なぜか会社の現金は減り続けている。

これは詐欺でも、税理士のミスでもありません。決算書の上では「儲かっている」のに、会社の現金は「毎年確実に流出していく」、この理屈を理解せずに事業投資を行うと、黒字のまま会社は潰れます。

今回は、不動産投資・自社ビル購入・大型設備投資など「借入を伴う事業投資」が孕む構造的な罠について、具体的な数字で解き明かします。

● 「儲かっています」という言葉の落とし穴

経営者が決算書を見て「利益が出ている」と判断する根拠は、ほぼ例外なく損益計算書(PL)の当期純利益です。

しかし、PLの利益は「会計上のルール」に従って計算された理論値であり、会社の手元にある現金の増減とは一致しません。これは中小企業経営における最大級の盲点です。

特に、次のような事業投資を行っている経営者は要注意です。

  • 賃貸用の不動産を購入し、家賃収入を得ている
  • 自社ビル・店舗・本社用地を借入で取得した
  • 工場・大型設備を導入し、長期返済の借入を組んでいる

これらに共通するのは、「減価償却」と「元本返済」という二つの数字が、PLの上では正しく見えないという点です。

● PLに載らない、もう一つのキャッシュアウト

ここが今回の記事の核心です。

会社が銀行から借入をした場合、毎月銀行に支払う金額には、「元本」と「利息」の二つが含まれます。このうち、PLに「費用」として計上されるのは利息だけです。

  • 利息 → PLに「支払利息」として計上される(費用)
  • 元本返済 → PLには一切計上されない

元本返済はPL上どこにも現れないため、利益だけを見ていると、その存在に気付けません。しかし現実には、毎月銀行口座から確実に引き落とされていきます。

一方、PLに「費用」として計上される減価償却費は、現金が出ていかない費用です。建物や設備の取得時に支払った現金を、耐用年数にわたって少しずつ費用化する会計上の処理に過ぎません。

ここから、会社の手元に実際に残る現金、すなわち簡易キャッシュフローは次の式で求められます。

簡易キャッシュフロー = 当期純利益 + 減価償却費 - 元本返済

PLの利益ではなく、この式の答えがプラスになっていなければ、会社の現金は減っていきます

● 実例:「表面利回り5%・フルローン10億円」のリアル

具体的な数字で見ていきましょう。

ある経営者が、土地5億円・建物5億円(耐用年数50年)の不動産投資物件を購入したケースです。

  • 表面利回り:5%(年間家賃収入5,000万円)
  • 借入:10億円フルローン(金利1%・返済期間20年)
  • 管理費:年間1,000万円
  • 法人税率:30%

これをPLに落とし込むと、こうなります。

項目金額
売上高(家賃収入)5,000万円
管理費△1,000万円
減価償却費(建物5億÷50年)△1,000万円
営業利益3,000万円
支払利息(10億×1%)△1,000万円
経常利益2,000万円
法人税等(30%)△600万円
当期純利益1,400万円

PLだけ見れば、毎年1,400万円の利益が出る、悪くない投資に見えます。

● 1,400万円の「黒字」が、毎年2,600万円のキャッシュアウトに変わる瞬間

ところが、簡易キャッシュフローを計算すると景色が一変します。

  • 当期純利益:+1,400万円
  • 減価償却費:+1,000万円
  • 元本返済(10億÷20年):△5,000万円

合計:△2,600万円

つまり、PL上は1,400万円の黒字なのに、現金は毎年2,600万円ずつ会社から消えていく。これが20年間続きます。

会社全体の手元現金がよほど潤沢でない限り、この物件を抱え続けることは不可能です。途中で資金ショートを起こします。本業で稼いだ利益が、すべてこの不動産の元本返済に吸い取られていく──これが「黒字なのに現金がない」「黒字なのに潰れる」という構造の正体です。

「フルローンでも回ります」というセールストークは、PLの数字だけを切り取った話に過ぎないのです。

● では、いくらまでなら借りていいのか

ここで重要なのは、「不動産投資はやめろ」という話ではない、ということです。手元現金を減らさずに保有できる投資なら、本業のリスク分散になり得るからです。

問題は、自己資金と借入のバランスです。

先ほどの条件(土地5億・建物5億、利回り5%、金利1%、返済20年、税率30%、本業利益ゼロ)で、簡易キャッシュフローがゼロになるラインを逆算すると、

  • 借入金額:約5億4,000万円
  • 必要自己資金:約4億6,000万円

つまり、自己資金で半分近くを出さなければ、会社の現金は流出します。

仮に本業で年1,000万円の当期純利益が安定して出ている会社なら、ペイラインは緩み、

  • 借入金額:約7億2,000万円
  • 必要自己資金:約2億8,000万円

までは耐えられます。ただしこれは、”「本業の利益が今後20年間、安定して続く」”という強い前提付きの話です。本業が一度悪化すれば、即座に資金繰りに火がつきます。

「儲かっている時に勧められた不動産で会社が傾いた」という話の大半は、騙されたわけではなく、最初から計算上アウトだったのです。表面利回りと税引後利益だけで判断し、簡易キャッシュフローを計算しなかったことに原因があります。

● 銀行はこの構造を見抜いている

「銀行が貸してくれたのだから大丈夫だろう」と考える経営者は少なくありません。しかし、それは銀行側の都合に過ぎません。

銀行は融資審査の段階で、”簡易キャッシュフロー(償却前利益 - 元本返済)”を必ず計算しています。返済原資が確保できているかを見るためです。

ところが、銀行員は審査時に「御社のキャッシュフローはマイナスになりますよ」と親切に教えてくれることはありません。担保や保証で回収の見込みが立てば、彼らは貸します。

つまり、「銀行が貸す=会社が安全」ではないということです。返せるかどうかを判断するのは、最終的には経営者自身しかいません。

● 「資産」と「贅沢品」の境界線

中小企業の決算書を見ていると、借入で取得された数々の「資産」が、実は本業の利益を生まない”「贅沢品」”であるケースに頻繁に出会います。

  • 仕事で使っていない別荘・保養施設名目の建物
  • 経営者本人が住んでいる「社宅」名目のタワーマンション
  • ゴルフ会員権・リゾート会員権
  • 高級車(社長と家族用に複数台)
  • 目的不明の関係会社株式や投資有価証券

これらに共通するのは、”「会社の本業に1円も利益をもたらさない」”ことです。にもかかわらず、毎年の元本返済・維持費・減価償却を会社の現金から食い続けます。

会社の資産は、本来こう問われるべきものです。

「この資産は、会社の現金を増やしてくれるか?」

増やしてくれるなら、それは資産です。減らすだけなら、それは個人の楽しみであって、会社の資産ではありません。経営判断とプライベートな出費を、決算書の上で混ぜてはいけないのです。

● 数字を読める経営者が、20年後も生き残る

PLの利益だけで経営判断をしていると、「儲かっているはずなのに現金が増えない」「気付けば借入だけが膨らんでいた」という状態に陥ります。

会社の現金を守るために、経営者が常に握っておくべき数字は、たった3つです。

  1. 当期純利益(PL上の儲け)
  2. 減価償却費(現金が出ていかない費用)
  3. 年間の元本返済額(PLには載らない現金流出)

この3つを足し引きするだけで、「会社に現金が残っているか、流出しているか」が即座に判定できます。

不動産投資を勧められたとき。自社ビルを検討するとき。大型設備の購入を判断するとき。この計算ができるかどうかが、20年後の会社の存続を左右します

京セラ創業者の稲盛和夫氏の言葉が、再び重く響きます。「会計がわからんで経営ができるか」と。

数字は、経営者が会社と社員と家族を守るための、最も確実な武器です。表面の利益ではなく、現金の流れを読む。それが、10年先も20年先も会社を残す経営者の最低条件なのです。

著者情報

楢﨑 賢也

楢﨑 賢也

父の事業が債務超過に陥り、経営者と家族の人生を左右する現実を目の当たりにする。
この原体験を起点に、約10年間、法人・経営者向けの財務支援に従事。
数多くの決算書と金融機関対応に向き合う中で、節税や商品提案だけでは会社は守れないことを痛感する。
銀行格付を軸に、決算書構造の改善から資金調達戦略まで一貫して設計し、銀行に評価され、選択肢を持ち続けられる会社づくりを支援する。

◼︎ 財務コンサルタント
◼︎ 2級ファイナンシャル・プランニング技能士

楢﨑 賢也